「石油系溶剤」という言葉を聞いたことがありますか?実は私達が普段使っているクリーニングサービス「ドライクリーニング」で使っている身近な溶剤なんです。
ここでは石油系溶剤について、その特徴やメリット、汚れ落としの特性等を詳しく解説していきます。
1.石油系溶剤とは何?
石油系溶剤とは、工業用に使われるガソリンの一種のこと。ガソリンと言うと「車や機械を動かすもの」という印象をお持ちの人が多いかもしれませんが、実は石油(ガソリン)はその他にも様々な用途で使われているんです。
- 石油系溶剤1号(ベンジン):主に洗浄に使われる
- 石油系溶剤2号(ゴム揮発油):塗料、ゴム用溶剤等に使われる
- 石油系溶剤3号(大豆揮発油):抽出用に使われる
- 石油系溶剤4号(ミネラルスピリット):塗料用、ペンキ等に用いられる
- 石油系溶剤5号(クリーニングソルベント):ドライクリーニングや塗料に用いられる
ここでは石油系溶剤のうち、5号の「ドライクリーニング」に用いる溶剤について紹介していきます。クリーニング用の石油系溶剤は、石油ナフサという原料を蒸留して作り出した成分であることから「石油系」という名前が付けられています。
沸点は150~210℃で、人体に対して毒性が無いこと、刺激臭等がほぼ無い点が他の石油系との違いと言えます。また乾燥性が高く、自然乾燥に適しているのも特徴です。
「石油系溶剤とは?」をとてもカンタンにまとめれば、クリーニング屋さんで行うドライクリーニングに使う専用の溶剤、ということになります。「ドライクリーニング」と言われてもその内容をよくわかっていなかった人も多いかもしれませんね。ドライクリーニングとは極端に大雑把に言うと「石油で服を洗うクリーニング」なんです。
2.石油系溶剤を使うメリットとは?
石油系溶剤を使ったドライクリーニングは、クリーニング屋さんで行われるもっとも代表的なクリーニングの方法です。しかしそもそもなぜ、クリーニングに石油系溶剤を使うのでしょうか。
縮みや型崩れが比較的起きにくい
衣類の生地によっては、水濡れによって大幅な収縮が起きてしまうことがあります。例えばシルクやウール・カシミヤ等の動物製品が水濡れに弱く、縮みが起きやすいことは有名ですね。
水濡れによる収縮が起きやすい生地では、最大10%~15%という縮みが起き、これが型崩れの原因ともなってしまいます。着丈70センチの服が7センチも縮んでしまったら大変ですよね。
石油系溶剤を使ったクリーニングでは、水を使わないためにこのような激しい収縮が比較的起きにくいです。そのため、シルクやウール等のご家庭での水洗いに不向きな製品も、石油系溶剤ならばクリーニングすることができます。
色落ちが起きにくい
衣類の生地によっては、水を通すことで大幅に色落ちが起きてしまうことがあります。
変色レベルの色落ちではなくても、水を使って洗濯をするたびに色少しずつ色落ちして、本来の鮮やかな発色ではなくなってしまうことも多いです。
石油系溶剤を使ったドライクリーニングでは、水濡れによる色落ちが起きる心配が比較的少なめです。濃い色の衣類や発色の良さを大切にしたい衣類等のクリーニングに向いています。
衣類へのダメージが比較的少ない
石油系溶剤は他の溶剤に比べて油脂溶解力が比較的緩やかであり、衣類に対してのダメージが少なめです。
そのためデリケートな衣類のクリーニングにも適しています。
3.石油系溶剤で落ちる汚れ・落ちにくい汚れは?
衣類のシミや汚れには、水溶性汚れ・油溶性の汚れといった様々な種類があります。石油系の溶剤が得意とする汚れの種類はどんなものなのでしょうか。
油溶性の汚れ落としは得意
石油系溶剤は、上でも解説したとおり石油から生まれた工業系ガソリンの一種です。石油系溶剤を使ったドライクリーニングとは、極端に言えば「油で衣類を洗う」といったもの。そのため、油に溶けやすい性質を持つ「油溶性汚れ・油溶性のシミ」を落とすには、石油溶剤が向いています。
・襟元・袖口等の皮脂汚れ
・油分の多い食べこぼし
・ファンデーションの汚れ
・口紅の汚れ 等
上記のような原因の汚れで、範囲が小さく、付いたばかりの汚れであれば、ドライクリーニングで全体洗い(機械洗い)をするだけでシミまで落ちることもあります。ただ汚れの範囲が直径2センチ以上と広かったり、付けてから時間が経っている場合には、石油系の溶剤を使った「シミ抜き」も追加で依頼をしておいた方が良いでしょう。
水溶性の汚れ落としは苦手
油溶性の汚れ落としは比較的得意な石油系溶剤。その反対に、水に溶けやすい性質を持つ「水溶性汚れ・水溶性のシミ」を落とすことはあまり得意ではありません。
・汗の汚れ
・コーヒーや紅茶のシミ
・ワインのシミ
・お酒のシミ
・おしっこのシミ 等
水溶性汚れの付いた衣類をドライクリーニング(機械による全体洗い)で洗うだけでは、汚れが完全に落ちることは期待できないでしょう。
例えば定期的にドライクリーニングをしていても、汗の成分は繊維に残って蓄積していることが多いものです。この成分が時間が経って変質すると、白い衣類を黄色っぽく変色させる「黄ばみ(黄変)」を起こします。
水溶性の汚れが付いている衣類は、別途「汗抜き」や「シミ抜き」等のメニューを追加した方が良いです。水溶性汚れの範囲が広い場合には、水を使った「ウェットクリーニング」を行えるクリーニング業者を選び、ウェットで洗ってもらいましょう。
4.石油系溶剤は家庭でも使える?
結論から言いますと、石油系溶剤は家庭では絶対に使えません。また個人ではなく企業であっても、きちんと法律に則って許可を取っている「クリーニング店」しか、石油系溶剤を扱うことはできないのです。
石油系溶剤は、消防法の危険物第4類に含まれる「危険物」です。「引火点が38℃~42℃」という性質は、つまり火事を起こしやすい非常に危険な物質ということ。クリーニング店の場合、洗浄温度は絶対に35℃以下に抑えつつ、タンブラーには爆発を防止するための防爆装置を取り付けることも必須とされています。
さらに帯電による爆発・火災等の恐れもあるため、帯電防止剤・スチーム等を使って対策をしていかなくてはなりません。クリーニング店やクリーニング工場にあるドライクリーニング用の洗濯機は、このような対策がなされた「石油系溶剤専用」の機械なのです。
さらに、洗浄のために使った石油系溶剤は、水のように下水に流すこともできません。きちんと専用の業者さんがクリーニング店に来て、使用済み溶剤を回収しています。これらは全て「クリーニング業法」という法律でも定められているんですよ。
ですから残念ながら石油系溶剤は一般家庭では購入もできませんし、扱うこともできません。石油系溶剤を使ったドライクリーニングは、クリーニング専門店に依頼しましょう。
5.石油系溶剤と「ドライ用洗剤」は違うの?
洗濯機の「ドライ洗い(ドライコース)」や「ドライ用洗剤」と呼ばれる洗剤があるため、「ドライクリーニングは家でもできる」と誤解してしまう人が多いようです。
一般家庭の洗濯機の「ドライ洗い」とは、「ドライクリーニングを使うようなデリケートな衣類も洗える、洗濯機でソフトに水洗いするコース」のこと。また「ドライ用洗剤」も同様で「縮みやすいデリケートな衣類向けの中性洗剤」のことです。
どちらも水を使う通常の洗濯法であって、石油系溶剤を使う「ドライクリーニング」とはまったく違います。
また一般の洗濯機の「ドライコース」や「ドライ洗い洗剤」であっても「水洗い不可」とされている衣類はご家庭では洗うことができません。この点も誤解が起きやすいので、十分にご注意ください。
おわりに
石油系溶剤の特性を知っておけば、ドライクリーニングサービスも上手に使いこなすことができますね。「この服はデリケートだから、クリーニング店で石油系溶剤で洗ってもらおう」「こちらは中性洗剤で手洗いしよう」等、うまく使い分けをして洋服のキレイな状態をながもちさせましょう!